MCIとは
MCI(軽度認知障害)は、記憶や注意力、言葉の理解などに低下がみられるものの、日常生活はほぼ自立して送ることができる状態を指します。認知症と診断されるほどではありませんが、放置すると認知症へ進行する可能性があるため、早期発見と適切な対策が重要です。日本の大規模調査では、高齢者のおよそ15%がMCIに該当すると報告され、世界的な研究では60歳以上人口の約16%がMCIと推定されています。MCI患者のうち年間10〜15%が認知症に進行するとされていますが、16〜41%は正常状態に戻ることも示されています
- もの覚えが悪くなった
- 頭がボーっとして何も考えられない
- 最近もの忘れが激しい
- 日常生活はできるけど激しい認知障害を感じる
病態と原因
MCIは単一の疾患ではなく、さまざまな背景疾患やリスク因子が関与する症候群です。最も一般的なのは初期のアルツハイマー型認知症ですが、レビー小体型認知症や脳血管性認知症、前頭側頭型認知症などに至るケースもあり、メタボリックシンドロームや頭部外傷、長期のうつ病・不安などもリスク因子とされます。さらに、ビタミンB12欠乏症や甲状腺機能低下症、慢性硬膜下血腫、正常圧水頭症など治療可能な疾患でも認知機能が低下することがあり、基礎疾患の見逃しに注意が必要です。
症状の特徴
MCIでは、記憶障害が中心となる「健忘型MCI」と、注意力や言語、遂行機能など複数領域が影響を受ける「非健忘型MCI」に分類されます。健忘型はアルツハイマー病への進行リスクが特に高いとされ、非健忘型はレビー小体型認知症や血管性認知症などに進行することがあります。主な症状としては、最近の出来事が思い出せない、同じ質問を繰り返す、話の筋を追えない、身近なものの名前が出ない、簡単な計算でミスが増える、慣れた道で迷うなどが挙げられます。
診断と評価
MCIの診断は、本人や家族からの問診に加えて、精神科医や臨床心理士が行う心理検査や身体的評価を組み合わせて総合的に判断します。当院ではミニメンタルステート検査(MMSE)やモントリオール認知評価(MoCA-J)、臨床的認知症評価(CDR)など複数の検査を実施し、認知機能の各領域を客観的に評価します。さらに、血液検査で内科的要因(甲状腺ホルモン異常やビタミン欠乏など)を確認します。画像検査(MRI、CT、脳血流SPECT、MIBG心筋シンチ、DaTスキャン)は当院では行えないため、必要な場合は岡崎市民病院や藤田医科大学岡崎医療センターと連携し、結果を当院に取り込みながら治療方針を検討します。
予防と治療
近年、アルツハイマー病の原因物質であるアミロイドβに作用し、病気の進行そのものを抑えることを目的とした治療薬が登場しています。代表的なものにレカネマブがあり、軽度認知障害(MCI)から軽度アルツハイマー病の段階で使用され始めています。これらの薬は、発症後の症状を和らげる従来の治療とは異なり、病態の進行を抑制する「病態修飾薬」であり、早期診断・早期介入の重要性はこれまで以上に高まっています。
一方で、MCIそのものを根治する薬は現時点では存在しません。そのため、薬物療法に加えて、生活習慣への介入が重要とされています。いくつかの研究では、以下のような取り組みが、認知症への進行を抑える可能性を示しています。
- ・適度な有酸素運動や筋力トレーニング
- ・野菜や魚を中心とした地中海型の食事
- ・良質な睡眠の確保
- ・読書や趣味などの知的活動
- ・家族や地域との社会的交流
また、高血圧・糖尿病・脂質異常症といった生活習慣病の管理、禁煙・節酒、うつ病の適切な治療も、認知機能低下の進行予防に寄与すると考えられています。
治療薬が使える可能性のある「今」の段階を見逃さないこと、そして薬物療法と生活習慣改善を組み合わせて取り組むことが、もの忘れ外来の大きな役割です。
ご家族へのアドバイス
MCIはご本人の自覚症状が少ない場合も多く、ご家族が「いつもと違う」と感じるかどうかが早期受診のカギとなります。「年齢のせいだから」と決めつけず、心配な点があれば遠慮なく専門医に相談してください。早期に評価することで、認知症への進行を遅らせたり、生活機能の維持を図ったりできる可能性があります。